肩の力を抜いて読める生きた経済入門書
Naked Economics
“Naked Economics” by Charles Wheelan
テキスト代:2,100円(税込 2,310円)
私たちは絶え間なく経済に関わっています。
毎日の仕事も経済活動のうちのひとつですし、スーパーやコンビニなどでの買い物も、まぎれもない経済活動です。
現代の日本に住んでいて、経済とまったく関わらないという人はおそらく誰一人としていないでしょう。 (無人島で自給自足をしている人がいれば別ですが)
ところが私たちの多くは、この毎日深く関わっている「経済」というものを案外よく知りません。様々な経済に関するニュースが毎日耳に入ってきますが、そのほとんどはわかったような気がするだけ。深くは理解していないことがほとんどです。政治家の経済政策も、何が良いのか悪いのか、聞いてもなかなか理解できません。
「確かに必要な知識かもしれない。」
「でも、経済学ってなんか固くてつまらなそうなんだよな。」
そう感じてなんとなく敬遠してきました。
でも、その「固くてつまらなそう」というイメージを払拭してくれたのがこの本”Naked Economics”です。
私はこの本を読んで、何度も声を上げて笑いました。経済の本を読んで「笑う」なんてことがあるとは考えてもいませんでした。
著者のCharles Wheelanは経済雑誌”Economisit”の記者で、何年もに渡り経済に関わり、それを人々にわかりやすく伝えるための活動をしてきました。
これまでの経済学はどちらかというと「専門家」のためのもので、決して一般の我々にとって近い存在ではありませんでした。
しかし、彼は「経済学は本来は直感的に理解できるものだ」と考えています。
そして「私たちの生活にとってとても重要で、かつこの上なく楽しいものだ」と主張しています。
そこで著者は経済学が本当はわかりやすくて面白いものだ、ということを多くの人にわかってもらうためにこの本を書いたのです。
アメリカは経済学のメッカです。何しろ過去10年間にノーベル経済学賞を受賞した19名のうちなんと16人がアメリカ人なのです。経済学に関する著書も、アメリカで出版されるものは圧倒的に多く、質も高くなっています。
そんな中でこの本は経済学の本としてベストセラーになり、内容もトップクラスの評価を得ています。Amazon.comでの評価も非常に高いものになっています。
→ amazon.comのレビューを見る
100を超えるレビューがあって、5段階中平均4.5の評価がある本なんて、なかなかありません。
(2008年3月20日現在)
これだけのセールスと評価を得ていますから、当然のようにすでに日本語訳のものは出ています。ところが残念ながら翻訳が良くなく、その面白味がまったく伝わらないものになってしまっています。Amazon.co.jpでの評価はアメリカでの高評価とは対照的に比較的低いものになってしまっています。またその翻訳のためあまり売れなかったのか、すでに絶版になってしまいました。こういう本は、絶対に原書で読むべきです。
この本を読むと、毎日自分が関わっている経済というものが、生き生きととても面白いものに感じられてきます。
自分のひとつひとつの意思決定が、世界にどのように影響を及ぼすのかかなり実感できるようになってきます。
毎日の経済ニュースも意味が分かるようになってきます。
日経新聞などが面白くなってきます。
自分はひとりで生きているのではなく、世界と密接につながっているのだ、ということがよくわかってきます。
そして世界をよりよくするために、自分が何をすれば良いのか糸口が見えてくるような気がしてきます。
そしてなんだか、今生きている世界が、より面白いものに見えてきます。
この中で著者は経済学の本としては極めて珍しく一切数式やグラフやチャートを使っていません。
本当に気軽にコラムを読むような軽さで、さらっと読めてしまいます。
そしてその気軽な読書の中で、経済学の基本的なことがしっかりと理解できるようになっていきます。
「経済」と聞くとなんとなく敬遠していた人は、ぜひぜひ読んでみてください。強くお勧めします。
脳科学の観点から人の能力や可能性を広げる
Evolve Your Brain
“Evolve Your Brain” by Joe Dispenza
テキスト代:2,700円(税込 2,970円)
脳に関する研究は多くの人が興味を持っています。そしてそれに関する書籍もたくさんでています。それらの数冊を手に取って読んでみたことがある方もいらっしゃるでしょう。
「でも、言っていることが難しくて理解できない。」
「その研究成果が自分の生活にどう役立つのかわからない。」
読んでみてそういう印象をもったことも多いのではないでしょうか?
私もいくつか読んでみました。もちろん面白いものもたくさんありましたが「じゃあ、実生活にどう役立つの?」というところまで踏み込んであるものは、あまりありませんでした。
でも、「脳」って人間の活動に極めて大きな影響を与えているパーツです。だから本当はこの性質をよりよく知ったならその知識を実生活に応用し、自分や他人の能力を引き出したり、可能性を広げたりすることができるはずなのでは?そういうことにもっと触れている本が洋書にはあるのでは?そう思っていろいろ探してみました。その結果出会ったのが、この本、”Evolve Your Brain”です。
この著者であるJoe Dispenzaはもともとカイロプラクティックの先生。脳科学者ではありません。脳科学者が書くと、脳の本はどうしても学術的になってしまいがちです。でもこの本は脳科学者ではない人が、「最新研究の成果をどう生活に応用するか」という興味で研究をすすめ、まとめたもの。ですから一般の人にとてもわかりやすい文章になっています。
そもそも著者が脳の仕組みに興味を持ったのは、自分が医者に見放されるほどの大怪我から、奇跡的に回復した経験に始まります。自分が回復する姿を一日に何度もイメージする努力などを繰り返すことで、一般的には考えられない治癒が彼に起こりました。このことから「脳というのは、一般的に考えられている以上の力があるに違いない」と思い、研究を始めたのです。
このような自分自身の体験が含まれていることが、この本を特徴的にし、さらに説得力の高いものにしています。
この他にもいくつかこの本を特徴的なものにしているポイントがあります。
それらをまとめてみると次の3点になるでしょう。
(1)「意識が脳を作り出している」という立場に立っている。
ほとんどの脳研究者は「脳はどのような仕組みで意識を作り上げているのか?」ということを解明しようと努力を続けています。
でも、この本によればこのような立場からの研究は答えを導き出すことができない。
なぜならば「脳」が「意識」を作り出しているのではなく、「意識」が「脳」を作り出しているから。
そうこの本の著者は考えています。
ちょっと飛躍した考え方だと思う人もいるでしょう。
しかし、「『物質』が『意識』『生命』を生み出している」という考え方は、徐々に古くなりつつあり、「『意識』『生命』が『物質』を生み出している」という考え方が科学者の間で支持されるようになってきているようです。
なぜならば後者のような考え方をとると、今まで説明がつかなかったことが、急に説明しやすくなったりするからです。
そして「脳」が「意識」を作っているのではなく、「意識」が「脳」を作っている、という立場に立つと非常に明るい未来が見えてきます。
「脳」が「意識」を作っているのなら意識を変えることで脳を作り変えることはできません。
でも、「意識」が「脳」を作っているのなら、「意識」を変えることで「脳」を変えることができる。そういう可能性が高まるからです。
(2)Neuroplaciticity(神経可塑性)について詳しく説明している。
Neuroplaciticityは脳の研究の中で、今一番注目されているもののひとつです。
これは簡単に言うと「脳は変化・成長する大きな力を持っている」ということ。
脳ミソというのは、年齢を重ねれば重ねるほど柔軟性を失っていき、融通が利かなくなっていく。
これまではそう思われてきました。
ところが最近は脳にはこれまで思われているよりもずっと、変化・成長する力を持っている、ということがわかってきました。
そして歳をとってもこの能力は失われることはない、ということもわかってきました。
でも、実際は加齢と共に新しいものを吸収したりする能力は低下していくように見えます。
なぜなのか。
これはNeuroplaciticityの理屈からかなり明快に説明できます。
そしてその理屈がわかると、いくつになっても成長し続けられる、ということがよくわかります。
また、その成長を促すためにどうしたらいいのか、ということもこの本の中で示されています。
(3)前頭葉に関する研究がわかりやすく説明されている。
他の動物に比べ人間は前頭葉が極端に大きくできています。このことなどから前頭葉は「人間らしさ」を作っている部分だ、と考えられています。
しかし、この前頭葉に関する研究は他の部分の研究に比べて遅れていて、英語のものでも前頭葉に関して詳しく説明している本はあまり多くなく、まして日本語のものはかなり少ない状況です。
この本ではその前頭葉の働きをわかりやすく説明しています。そしてその部分を活性化し、「人間らしい能力」を最大化するためにどのようにしたらいいのかを示してくれています。
このようにこの”Evolve Your Brain”は非常に魅力的で読む価値の高い本です。
ただ、ネックとなる点があるとすれば、分量が多いこと。エピローグの手前までで468ページあります。
しかしこのページ数にもかかわらず、文章が非常に読みやすく、図解も多いため、その分量をあまり感じさせません。
能力を伸ばす、ということは自己啓発の立場からも、ビジネスの立場からも重要でエキサイティングなテーマです。
でも、そのほとんどは経験則を基にしたもの。もちろんそれはそれで素晴らしいのですが、「科学的な根拠に欠けている」と言われれば、確かにそうなのです。
この本はその科学的根拠を明確に示しています。
自分の能力を伸ばしたい人、社員や部下の能力を伸ばしたい人、子どもの成績を伸ばしたい人、など、能力向上に興味のあるすべての人に心からオススメします。