良い決断をするためにはどうしたらいいのでしょう?現代の多くの人は良い決断をするためにはその決断をするか否かを詳細に分析し、検討し、議論を深めてから慎重に決断をしていくのが良い、と考えているようです。しかし本当にそうなのでしょうか?実は決断に関する名著”Decisive”で著者たちは、そのようなプロセスは良い結果をもたらすためには「全く効果的でない」と主張しているのです。どういうことなのでしょうか?
今の日本社会では「議論を深める」やり方は有効だと考えられている
一般的に良い決断をするためには、その決断をするべきか否かを詳細に分析検討し、議論を深めた上で決断をすべきである、と考えられています。そしてその考え方に基づいて、たとえば国の立法機関・国会は審議を行って法律を作り、国の方針を決めていきます。しかし、いわゆる「議論を深める」やり方は本当に有効なのでしょうか?ひとつの案件について様々な情報やデータを集め、多くの人の意見を聞き決断していくというやり方は本当に良い決断をするために役立つ方法なのでしょうか?
少なくとも今の国会の様子を見ると、その方法に疑問を持ちたくなる人は多いのではないかと思います。
「議論を深める」やり方は、効果が低いという研究報告
最近ソフィー・ジ・アカデミーの洋書テキストにも加わった”Decisive“という良い決断・決定をするためのプロセスを紹介した全米ベストセラー本の中では、この良い決断をするために「議論を深める」というやり方について疑問を投げかける、ある実験が紹介されています。
シドニー大学のダン・ロバロ教授とマッキンゼー&カンパニー社のオリビア・シボニー氏は5年間に渡り1,048個のビジネス上の決断を調査しました。それぞれの決断がどのように行われたのか、と、それに続く会社の収入や利益などの変化を追跡調査したのです。その結果、決断をするプロセスの中で「ひとつの決定をするべきか否か」のような決断に関して「議論を深める」ような形で決断まで至った場合と、多くの人の意見を聞き複数の可能性を検討するというような「議論を広げる」というような形で決断まで至った場合では、「議論を広げる」やり方のほうが、その後収入や利益が上がるかどうかにおいて6倍も重要である、ということがわかったのです。(“Decisive”, p.5-6を邦訳して要約)
この実験が示しているかも知れないこと:「議論を深める」vs「議論を広げる」
この実験が示唆しているのは現在国会や選挙などで行われているような「議論を深める」やり方の決断プロセスは、良い決断に至る確率が非常に低いやり方なのかもしれない、ということです。そうではなく、法案をたとえば5タイプ用意し、それぞれを同時に検討していくような「議論を広げる」ようなやり方のほうが圧倒的に理にかなったやり方であるかもしれない、ということを示しているのです。
複数の選択肢をあげて検討していくようなやり方は、慣れないうちはかなり面倒くさく見えるかもしれません。1つの案をつくるだけでも手間がかかるのに、それを5個も6個もつくらなければいけないなんて、とてつもない時間がかかってしまうような気がするかもしれません。
しかし実際にやってみるとわかりますが、最初は確かに複数の選択肢を上げていくのには時間がかかるのですが、この方法だとその後決定に至るまでの時間や決定したことを実行していく段階での時間がかなり節約できることがわかります。
まずは身近な決断に「議論を広げる」プロセスを応用してみよう
どうしてそういうことが起こるのか、や、具体的にどのようにこのプロセスを実行して行ったらいいのか、ということについてはこれからじっくりと”Decisive”で読んでみてください。
とりあえず、身近なこと、たとえば「今日の夕飯何を食べる?」とか「週末何して過ごす?」というようなことに関して5個位の選択肢をあげてみて、そこから1つに絞り込むという作業を自分一人で行ってみてください。もちろん家族と一緒に話し合いながらこのプロセスを行ってみるのもいいでしょう。
ぜひ試してみてください。何か興味深い発見や気づきがあるかもしれません。