世界経済は大きく揺れ動いています。でも、経済ってどうしてこんなに大きく変化するのでしょうか?そしてそれをより良いものにしていくために私たちは何ができるのでしょうか?今回は経済入門の大ベストセラー&ロングセラー“Naked Economics”の内容からそれを一緒に考察してみましょう。
“Naked Economics“を読むと経済が案外シンプルなものである、と気づきます。そしてその仕組みの大枠がわかります。そしてその仕組みの大枠がわかると、今経済の中で起こっている様々な現象に対して、何をすれば解決になりうるのか、が少し見えてきます。
まったく自分にはどうしようもないように思えていたものが、もしかしたら少しは自分にも何かできるのではないか、と思えてきます。たとえば”Naked Economics“の中で紹介されている経済学の考え方の中で、非常に面白いものをひとつ上げてみましょう。
Human Capital(人的資本)
取り上げるのは第6章の”Human Capital”(人的資本)です。人的資本って言い方をすると、すごく難しいもののような気がしますよね。でも、実際はさほど難しいものではありません。簡単に言うと、「人や人々が持っている能力やスキル」のこと。
経済って、「お金」とか「モノ」の方が、「人」よりも大切だ、となんとなく思われているところがあります。だけど [「人」の方がずっと大切ですよ。それが経済を作っているんですよ。] そんな話なんです。
ただ、これだけだと「ふーん」という感じだと思うので、”Naked Economics”の中で紹介されている、ひとつの「寓話」を簡単にお話します。
日本のあるところに小さな村があります。その村は、非常に山奥にあり、他の地域とはまったく交流がありません。人の行き来もモノの交換もまったくないのです。この村は完全に自給自足で成り立っています。
食べ物も全部自分たちで育て、洋服や食器、建物なども自分たちで作る能力を持っています。決してぜいたくはできていませんし、あまりの食べ物やモノや仕事はありません。でも、とりあえず不自由なく平和にみんな暮らしています。
この村にある時、1人の男がやってきます。
この男をAと呼びましょう。Aは取り立てた能力もスキルも持っていません。でも、この村に住みたい、と思ってやってきたのです。
しかし、この村には余っている仕事はありません。Aを養うような余剰の食べ物もありません。だから村人はこの村にAに住みつかれては困ってしまうのです。結局、Aはこの村を追い出されてしまいます。
しばらくすると今度は別の男が村にやってきます。
この男をBと呼びましょう。彼もまたこの村に住みたい、と思ってやってきたのです。はじめ村人はAと同じように、Bを追い出そうとしました。しかしBはAとは違いました。
Bは農業に関する非常に高い知識と豊かな経験を持っていました。農業の生産性を上げる知恵をたくさん持っていました。Bは村の農民に、少ない労働で高い収穫を得るための方法を教えました。そして効率よく作業を行うための道具の作り方も教えました。
その結果、余剰の食糧が生まれ、Bに分け与えられました。Bは仕事がない村に来たのですが、その能力によって、新しい仕事を自ら生み出したのです。さらにその後、余っている農作物を他の村に輸出することが始まりました。
また、その効率よい生産方法を学ぶために、他の村から人が集まり、学校ができました。そして農作業の道具を作るための工場もできました。こうしてこの村はどんどん豊かに発展していきました。
この寓話は”Naked Economics“の104ページで紹介されているものを短くアレンジしたものです。このお話を読むと、「仕事」というのはすでにそこにあるものではなく、人の「知恵」「知識」「経験」「能力」によって、生み出されるものだ、ということがわかります。この「知恵」「知識」「経験」「能力」を「人的資本」と経済学では呼んでいるのです。
教育が新しい世界を作る
Aさんはとりたてた「人的資本」を持っていないため、仕事を自分で生み出すことができません。それに対しBさんは「人的資本」を持っているため、仕事を自分で生み出すことができます。
さあ、ここで質問です。あなたはAさんですか?それともBさんですか?
今、世界はBさんのような人が不足しているため、必要な新たな価値を生み出しきれないでいるのです。でももし、Bさんのような人を育てられるような教育の場があり、どんどんと「人的資本」を持った人を輩出できたなら、どんなことが起きるでしょうか?Bさんのような人が、1000人、日本のある地方都市にやってきたなら、何が起こるでしょうか。1万人、東京にやってきたなら、どんな変化が起こるでしょうか。100万人、日本中に広がったなら、どんな未来が可能になるでしょうか?
「人的資本」という考え方を知ると、「教育」が新しい世界を作るために、非常に効果が高いものであることが分かります。一見、時間がかかることのように思えますが、実は一番早く成果が得られることなのかもしれません。
このように、「経済学」のベーシックがわかると、世界を変えるためのヒントが見えてきます。そして自分にもそのためになにかができるかもしれない。そんな気がしてきます。
「経済学」は本当は理屈っぽくて退屈なものではなく、直感的に分かりやすくて、未来への夢や希望を与えてくれるものなのかもしれません。
追伸
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