やる気を出させない方法

英語学習のために「やる気を出そう!」と思っても、なかなかやる気が出てこないときってあります。こういう時は逆から考えてみましょう。普段考えてみたことがない方向性からあえて考えてみることでヒントが見えてきます。

「やる気を出す方法」とか「やる気を出させる方法」についての記事とか本はたくさんあります。でも、試してみてもなかなかうまくいかない、という方も多いのではないでしょうか。そこで今回はあえて逆から考えてみます。意図的に「やる気を出させない方法」を考えてみるのです。

何でもそうですが、ひとつの方向からやったり考えたりしてもなかなかうまく行かなかったり分からなかったものが、反対の方向から試してみると、案外うまく行ったり理解できたりすることがあります。だから今回は「やる気」についてこの方法で考えてみよう、と思ったわけです。

報酬と興味についての実験

Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivationこの「やる気を出させない方法」を考えるために引用する本が “Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation” という本。邦訳は『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』という題で出ています。やる気に関する本はビジネス書や心理学の本としてたくさん出ています。その中でもこの本は最も優れたもののひとつ。シンプルですが、とても深い気付きを与えてくれます。

すこし学術的ですが、英語は基本的に平易。興味さえあれば結構読めてしまう人は多いと思います。

実験の概要

この本の中で紹介されている、ある実験を紹介しましょう。この実験では2つのグループにあるパズルをしてもらいます。

  • 【グループ1】には、パズルを解くと1つのパズルにつき1ドルの報酬を与える。
  • 【グループ2】には、パズルを解いても何の報酬も与えない。

さあ、ここで問題です。どちらのグループがパズルに興味を持つようになったのでしょうか?

多くの人は「報酬を与えられた【グループ1】の方が当然パズルに興味を持つようになっただろう」と考えるかもしれません。ところが答えは違います。実際はなんと【グループ2】の方がパズルに興味を持つようになったのです。

実験の詳細

ではもう少し実験の詳細を見てみましょう。

この実験では両グループにまず30分パズルをしてもらいました。その後「実験は終わりました」と彼らに言い、実験の主催者は部屋から出て行きます。そして8分間、その場所に彼らを放っておくのです。実はこの「8分間」がこの実験の重要なところ。

実験者は「この8分間にどちらのグループがより自主的にパズルに取り組むか」を観察しているのです。誰にもお願いも強制もされていないこの8分間に自主的にパズルに取り組む人が多かったほうが「パズルに興味を持った」と言えるからです。

結果としては【グループ2】の方がこの8分間に自主的にパズルに取り組む人が圧倒的に多かったのです。つまり【グループ2】の方が純粋にパズルに興味を持ち、パズルを解くということに対するやる気を長く持続できた、ということがでるのです。

【グループ1】の人たちは「お金がもらえない」と知った瞬間にパズルに対する興味とやる気を失ってしまったのです。いつの間にか「パズルに対する興味」が「お金に対する興味」にすりかわっていたのです。

外的報酬と内的報酬

この実験から他人に「やる気を出させない方法」がひとつわかります。それは「外的報酬を与えること」(!)です。常識とは正反対ですよね。

モノとかお金とかの「外的報酬」をある行動に対して与えると、もともとその行動に対して持っていた純粋な興味やヤル気や満足感(内的報酬)が、「外的報酬」にすりかわります。

そしてその行動の動機が「外的報酬」に完全に変わった後で、その「外的報酬」を与えるのをやめる。そうすると「何ももらえないならやーめた」とその行動を相手はやめてしまうのです。

一般的には「やる気を出させるには『外的報酬』を与えること」が常識とされています。ところがこれは実はまったく逆効果なのです。外的報酬を与えると内的報酬を奪ってしまうことになるのです。その結果、外的報酬がないと行動しない人、誰かにお膳立てしてもらわないと動けない人、自主的に仕事や勉強ができない人、を作ってしまいます。

もちろん「外的報酬」を与えることにメリットはあります。それは、

  1. 相手のやる気が一時的だけですが上がること
  2. そして相手が「いつ何にやる気を持つか」をコントロールできること

です。しかし、それはあくまで一時的なもの。そしてもし「外的報酬」を使ってやる気を上げ続けようと思ったら、この「外的報酬」の量を少しずつ増やし続けなければいけません。でも、これには限界があります。増やし続けるといつか「もうこれ以上は増やせない」という時がくる。

そしてそうなってしまうと、もう「外的報酬」では、相手のやる気を持続しきれなくなってしまうのです。これは興味深い事実です。そしていろんなことを考えるヒントを与えてくれます。

  • どうして成果主義による評価はうまくいかなかったのか?
  • どうして中学生や高校生は勉強嫌いになるのか?
  • その一方でどうして大人になるとまた勉強したくなるのか?
  • どうして今の人たちは昔の人たちに比べて勤労意欲が少ないのか?
  • どうして仕事に充実感が感じられないのか?

外的報酬と内的報酬について理解することで、こんなクエスチョンに対する答えが見えてきます。”Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation” と邦訳「人を伸ばす力―内発と自律のすすめ」おすすめです。

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