【内容の要約】
- [問題]発音レッスンなどを受け過ぎると、逆にしゃべれなくなってしまう
- 発音レッスンなどを受け過ぎると、英会話の時に意識が相手に向かいにくくなる
- [解決策]英会話のときはまず「相手を理解する」ことに意識を向けよ
- 今の英語教育の問題点と英会話の力を高めるために本当に必要なこと
- 逆の立場になって考えてみる:「2人の外国人」の例
1.[問題]発音レッスンなどを受け過ぎると、逆にしゃべれなくなってしまう
英会話スクールに通い「ネイティブのようなきれいな英語をしゃべりたい」と思い、「発音レッスン」のようなものを受けるケースは、よくあります。
つい先日、某大手英会話スクールのウェブサイトでも有名な女優さんが「発音レッスン」を受けているビデオを見ました。その動画を見て、このような「発音レッスン」的なものを過度にやってしまうと、どんどん言葉がでにくくなってしまうだろうな、と強く感じました。
実は私にも同じような経験があります。発音矯正を一生懸命した結果、どんどん英語が口から出にくくなっていってしまったのです。他にも同じようなレッスンを受けて余計にしゃべれなくなったり不自然になってしまった人を何人も見ています。
イチイチ自分が発する英語の音に耳が行ってしまうので、相手の言葉や表情に意識が行かなくなってしまうのでしょう。いわゆる「自意識過剰」の状態です。好きな人の前だと急に緊張してしゃべれなくなってしまったり、人前に立つと言葉が出なくなってしまったりするのと、基本的には同じ現象です。
2.発音レッスンなどを受け過ぎると、英会話の時に意識が相手に向かいにくくなる
発音レッスンをしている人の目線を見てみると、その問題点がよくわかります。会話が自然と流れて盛り上がるときというのは、基本的に目線は相手の方向へ向くものです。目線が相手に向くから意識が相手に向かうようになり、相手もその意識を感じ、メッセージが伝わりやすくなります。
ところが発音レッスンを受けながら発音練習している人の目線は、下向きに落ち、相手側へと向かわなくなります。このクセがついてしまうと、英語を話すたびに目線が下がり、話しを聞いている相手には気持ちが伝わりにくくなっていってしまうのです。目線が相手に向かわないと、話しを聞いている人には話し手の意識が伝わってこないので、メッセージを理解しにくくなってしまいます。この状態だといくら「きれいな発音」をしても、良いコミュニケーションはできなくなってしまうのです。
さらに悪いケースだと、発音レッスンをして英語が相手に伝わらない理由が「まだ発音が悪いからだ」と思ってしまうこともあります。そうすると余計に発音練習に励んでしまい、その結果ますます伝わらない英語になってしまう、という超悪循環に陥ってしまいます。
3.[解決策]英会話のときはまず「相手を理解する」ことに意識を向けよ
故スティーブン・コヴィー博士の『7つの習慣』という本をご存知の方は多いでしょう。その本の中では「幸福でバランスのとれた人間に成長するのに必要な習慣」が紹介されています。
原題は”The 7 Habits of Highly Effective People: Powerful Lessons in Personal Change“。
そこで紹介されている7つの習慣のうちの4つ目の習慣に、このようなものがあります。
“Seek First to Understand, Then to Be Understood.”
これは「他人に理解してもらうためには、まず自分が他人を理解しようとするところから始めるべし」というような意味です。
多くの人は「より良いコミュニケーションをするためには、自分の表現能力や説明能力を上げなければいけない」と思ってしまっています。その結果「自分を理解してもらう」ことに必死になります。
しかしながらコヴィー博士によれば、それは典型的なよくある間違いです。
本当にコミュニケーションが上手な人は「自分を理解してもらう」より先に、「相手を理解しようとする」ことを行うことに注力をするものだ、と言っています。そして相手をよく理解したあと、コミュニケーションの状態が良くなり、「結果として」相手が自分を理解してくれようとするようになるのだ、と説明してます。
4.今の英語教育の問題点と英会話の力を高めるために本当に必要なこと
これは英会話スクールや英語教育の問題点を鋭く指摘していると思うのです。
英会話の教育では「どうやってしゃべるか」「どうやって良い発音をするか」「どうやって文法的に正しく話すか」などということろをまずやろうとします。「自分を理解してもらう」ことを一生懸命やってしまうのです。しかし、コヴィー博士の説に従えば、最初から「自分を理解してもらう」ということに一生懸命になってしまうと、良いコミュニケーションは発生しにくくなります。そうではなく「相手を理解しようとする」ということに最初はもっと一生懸命になるべきなのです。
これは「リスニング力を最初に高めるべき」ということを言っているのではありません。そうではなく、もう少し深いレベルで「相手を理解しようとする」ということをまず行うこと、が良いコミュニケーションの秘訣であるということです。
英会話の時に表面的な英語表現に意識を向けるのではなく、相手の文化的バックグラウンドに興味を持つとか、人としての潜在的な良さに意識を向けるとか、「どのような心理的な背景があってそういう立場をとっているのか」を観察してみる、とか、「人間としてのどの欲求を満たそうとして今の言動をしているか」を推測する、とか、そういう深めの部分を理解しようと、まず、努めるのです。
そういう深いレベルで相手を理解し、共感しようとすることが、相手の心を開くことにつながり、コミュニケーションの質が上がるのです。そしてその結果、あなたの話している英語が伝わりやすくなるのです。
5.逆の立場になって考えてみる:「2人の外国人」の例
これは逆の立場に立って考えてみると、きっとよくわかると思います。
どこかの国から来た2人の外国人があなたの目の前にいるとしましょう。
最初のAさんは、日本語の発音レッスンを徹底的に受けてから日本にやってきました。ですから発音を聞く限りはまったく日本人と変わらない日本語を話します。しかし、日本にはまったく興味を持っておらず、目の前にいるあなたにもほとんど興味を持っていません。Aさんの興味があるのは自分の日本語の発音であり、日本語の正しい文法表現であり、それをあなたが「どう評価してくれるか」です。
それに対しBさんは、日本語の発音はすこし不思議な感じです。その発音を聞けば明らかに外国人が日本語を話している、というのがわかります。しかし、Bさんは日本や日本の文化に強烈な興味を持っています。日本のことをたいていの日本人よりはよく知っているんじゃないか、というくらいに知っています。またその日本という文化の中に育ってきた「あなた」という人間にも強力に興味を抱いています。Bさんは自分の発音や文法表現が正しいかどうかにはほとんど興味がなく、日本語をあくまで道具として使って日本やあなたをもっと知りたいと思っています。
さあ、あなたはどちらの人ともっと話したいと思うでしょうか?どちらの人により興味を持ち、どちらの人のことをもっと理解したいと感じるでしょうか?
答えは全員が同じとは限らないので、ここで絶対的なひとつの答えを出すのはやめておきます。
ただ、このケースを考えると
“Seek First to Understand, Then To Be Understood”
という『7つの習慣』の中でコヴィー博士が言っている原則が非常に強力なことがわかるのではないでしょうか。そしてその良いコミュニケーションのための原則が、当然日本語でのコミュニケーションだけではなく、英語もしくは他の外国語でのコミュニケーションでも適用できることがわかるのではないでしょうか?
最後にもう一度。
“Seek First to Understand, Then to Be Understood.”