私は28才の時に「理想の教育の場」を作ることを夢見て独立しましたが、残念ながら経営に関しては無知同然でした。そこで経営を学ぶために必死でヒントを探し求め出会ったのが英語のビジネス書たちです。ここでは中でも特に私の経営に影響を与えてきた5冊を紹介します。
【内容の要約】
- [問題]独立当初は、経営については無知同然だった
- [解決策]洋書を読んで実践した
- 私の経営に最も影響を与えた洋書5冊
1.[問題]独立当初は、経営については無知同然だった
私は1年ほど大手の進学塾で勤めた後、地元に帰って自分で学習塾を開きました。教育内容には自信はありました。でも、経営についてはまったくの無知でした。「いいものを提供していれば自然と生徒は集まるだろう」と思っていたのですが、いざ開業してみると、なかなか生徒は集まりませんでした。今考えれば「まったく甘かったなあ」と思います。
提供している商品やサービスがいくら良いものだったとしても、経営の知識がなければ、それを売り続けたり提供し続けることはできない、ということは今はよくわかります。しかし、独立した当時はそういうことがよくわかっていませんでした。ただ、自分が提供している教育という形のサービスに可能性を感じていたので、経営は独学で勉強してなんとかビジネスとして成り立たせたい、という情熱は持っていました。
最初は日本語のビジネス書を読みました。当時は時間だけはあったので地元の図書館のビジネス書のほとんどを読み尽くしました。毎日毎日図書館へ行って、借りて、教室で読む、という生活を2年ほど続け、少なくともその期間中に500〜600冊はビジネス書を読んだと思います。しかし、なかなか良い本に巡り会えませんでした。その間経営もなかなか上向かず、自分の給料もまったく出せないような状態が続いていました。
2.[解決策]ビジネス洋書を読んで実践した
そんな頃、アメリカで「インターネット書店」というのが現われ、一般的になりつつありました。私がその書店を利用し始めたのは1999年でした。これらのネット書店(amazon.comやbarnesandnoble.comなど)を通じてアメリカから洋書が簡単に取り寄せられるようになりました。
日本のビジネス書から経営のヒントを見つけることに行き詰まりを感じていた私は、ワラにもすがる気持ちでamazon.comからビジネス洋書を買い、読むようになりました。そしてそこではじめて、日本のビジネス書よりも圧倒的にレベルが高いものがたくさんあることに気がつきました。
1冊1冊読み、実践し、ひとつ成功し、ふたつ失敗し、ということを繰り返しました。もちろん失敗の方が多かったのですが、それでもとても勉強になりました。日本語の本を読んでいるときは何に取り組んでいいのかも思いつかなかったのですから、洋書を読むと何かをしようと思いつけるだけ、ずっと良かったのです。そして徐々に成功する確率も上がりはじめ、少しずつ「経営とは何か」についてわかりはじめるようになりました。
もちろん経営についてはまだまだ勉強中ですが、インターネットの書店で洋書が今のように手に入りやすくなっていなければ、今もまだ経営についての手がかりもつかめない状態だったかも知れません。
1999年以来、たくさんの英語のビジネス書が私の経営手法に影響を与えてきましたが、今回はその中でも「特に」私の経営手法に影響を与えてきたものを、「影響を与えた順」に時系列に並べながら、5冊厳選して紹介してみようと思います。
3.私の経営に最も影響を与えた洋書5冊
【1冊目】 Dan Kennedy “The Ultimate Sales Letter“
一番最初にamazon.comから購入した洋書がこの本です。今は改訂されて表紙は白っぽいものになっているのですが、当時はこの金色の表紙でしたから段ボール箱を開けた時は宝箱の中の金塊でも手に入れたようにドキドキしたのを今でもよく覚えています。
1999年のこの頃は塾を自分ではじめて2年ほど経った頃で、生徒指導にも慣れ、塾としてのコンテンツにかなり自信を持ってきたときでした。しかし、それをどう人に伝えていけばいいのかはよくわかっておらず、そのノウハウを喉から手が出るくらい欲していたときでした。
ダン・ケネディのこの本は「セールスレターの書き方入門」的なもので、「この本の中に示されているステップに従って文章を書いていくと良い文章が書ける」といううたい文句でした。実際にこの中のステップに沿って教室の新聞や広告の文章などを何回も何回も書いて、練習しました。
最初からうまく行ったわけではありませんが、「これを続けていけばもっと伝わる文章が書けるようになる」というとっかかりが得られた気がして、当時の私にとっては大きな救いになりました。
この本は今では日本語訳も出ています。
『究極のセールスレター シンプルだけど、一生役に立つ!お客様の心をわしづかみにするためのバイブル』
ただ、日本語訳ではダン・ケネディの言葉のエネルギーが感じ取れないので、原書をぜひ読んでみてください。ダン・ケネディはかなり「毒舌」なのですが、だからこそダイレクトに伝わってくるものがあります。
文章の書き方の本って、アメリカでも日本でもいくつもありますが、私は個人的にはこの本が、少なくともビジネスにおいて文章を書きたい人にとってはベストな本だと思います。
【2冊目】 Zig Ziglar著 “Zig Ziglar’s Secrets of Closing the Sale“
ダン・ケネディの本に従って練習し、少しずつ魅力的なチラシの文章が書けるようになって、体験受講の生徒が集まるようになりました(この頃にはビジネス洋書の読み方を経営者たちに通信講座で教える「経営者英語大学」という、現在のソフィーの英語スクールの原型がスタートしていました)。しかしそれに伴って今度は次の問題が表面化しました。
体験してくれた生徒や保護者に、入塾を勧めるのが上手にできなかったのです。
生徒や保護者を目の前にすると、なんだかドキドキしてしまい、そのドキドキしている様子が相手に不信感を与えてしまう感じがして、それを押さえようとするとさらにドキドキして、、、みたいな感じで悪循環でした。
そんな時に助けになってくれたのがこの本です。
この著者ジグ・ジグラーという人はアメリカでは一昔前のセールスの分野ではかなり有名な方。彼の著書の中で代表作と言えるものがこれです。
「セールス」というものは、自分のためにするものではなく、相手のためにするものであり、かつ楽しいものである、ということを教えてくれたのがこの本です。
Amazon.comでの読者評価の多さと評価の高さを見るだけでも、この本のすごさがわかるでしょう。1985年に出版されたのに、いまだにベストセラーです。
本当に良いセールスというのは話がわかりやすいだけでなく、セールスされる相手に取っては一種のエンターテイメントのようなものであり、そのセールスマンの相手への愛情やサービス精神というのが現われるものなのだ、ということがこの本を繰り返し読んでよく理解できました。
この本も翻訳版が出ていますが、すでに絶版になっています。
原書は400ページを超える大著なので、いきなり原書で読んでいくことは洋書初心者にとっては難しいと思いますが、他の本で洋書に慣れてきたらぜひ挑戦してみる価値のある本です。
【3冊目】Margaret Wheatley著”Leadership and the New Science: Discovering Order in a Chaotic World“
チラシもだいぶ上手に作れるようになり、セールスもスムースにできるようになり、塾の経営も少しずつ安定してきました。また英会話スクールの事業の一気に成長し、スタッフが増えはじめました。(この頃は英会話スクール事業の名称は「ソフィー英語大学」となっていました)すると、今度は次の問題に直面しました。
雇うようになったスタッフをなかなか上手に育てていくことができなかったのです。
数学や英語など「知識」を教えるのは上手にできたのですが、仕事に関わる「知恵」の部分をどうやって伝えていけばいいのか、よく理解していないことに気がつきました。この「どうやってスタッフを育てていけばいいのか」ということは数年悩み続けました。
そんな中で出会ったのがこの本です。この本は、「量子力学などの最新科学の発見から良い組織作りのヒントを探す」という、ちょっと変わった本。組織作りに関する本って、単なる「自分の場合はこうやってうまくいった」という個人体験談で終わってしまっているものが多いのですが、自然界での法則に基づいた理論がすごくわかりやすくしっかりしていて、不思議な説得力がある本です。ソフィー・ジ・アカデミーでは、ミッションとかフィロソフィーとかが明文化されているのですが、それはこの本から得た学びにかなり大きな影響を受けています。
この内容から得たヒントを実践するようになり、急にではありませんが、少しずつスタッフが育ちやすくなっていきました。
【4冊目】Terry Warner著 “Bonds That Make Us Free“
経営が少しずつ軌道に乗りはじめ、スタッフの育成も少しずつ出来るようになってくると、成績がなかなか上がらない「一部の生徒」がすごく気になるようになってきました。(この頃ようやく英会話スクール事業は現在の「ソフィー・ジ・アカデミー」という名称になり、恵比寿と長岡での通学コースもスタートしました)
当然ですが、塾は100%生徒の成績を上げられるわけではありません。ソフィー学習塾は私がそれまでにアルバイトも含めて経験してきた塾と比べると圧倒的に大きな成果を上げていましたが、それでもやっぱり数%の生徒は成績が上がらずに困っていました。
そのような生徒は「勉強方法」とか、そういうところが問題なのではなく、もっと奥深いところの「親子関係」とか、その他の人間関係のところで問題を抱えているために、勉強に集中できないのだろう、ということは想像がついていました。
でも、その奥深い問題に、どう手を付けていいのかはよくわからず、試行錯誤が続いていました。
そんな時に出会ったのがこの本です。この本は人間関係の「しくみ」を本当にわかりやすく説明してくれます。私はアメリカの大学で「コミュニケーション学」を学んだので、留学時も卒業してからも数多くのコミュニケーション関連の本を読みましたが、この本はその中で最も優れた本の1つと言ってもいいと思います。これもAmazon.comの読者評価の数と評価の高さをみるだけで、この本のすごさが想像できると思います。この本を読み、いろんな人間関係を観察するうちに、生徒のより深い部分にある問題にもより上手にサポートできるようになりました。そして「数%の生徒」も時間をかければ成績を伸ばしていけるようになりました。
この本は2014年8月現在未邦訳ですが、著者のテリー・ワーナーが携わっているコンサルティング組織が出している本は翻訳されています。
これはテリー・ワーナーが”Bonds that Make Us Free”の中で説明していることの一部を、わかりやすく物語風にまとめたものなので、入門編としてはなかなか良いと思います。
【5冊目】Al Ries & Jack Trout著 “Positioning“
ここまで来ると今度はまた次の問題にぶち当たりました。それは「より大きい視点で経営を考えることが苦手」ということでした。
目の前の生徒やその保護者に意識を向けることはだいぶ上手にできた方だと思うのですが、まだ出会っていない人たちのことを考えたり意識したりすることは、もともと苦手でした。いわゆる「マーケット視点」みたいなのが苦手でした。というか、そういう発想の仕方は「人をモノとして扱っている」ような気がして、そもそも嫌いだったのです。でも、経営を次のステップに進めるにはそういう発想が必要なのだ、ということが少しずつわかってくるようになりました。
そこでマーケット分析に関連する本などを続けて何冊も読みました。でも、正直言ってあまり頭に入ってくる感じはありませんでした。マーケティングに関する知識が必要だとずっと感じつつも、なかなかとっかかりをつかめずにいる時期が数年続きました。
そんな時に出会ったのがこの本です。「ポジショニング」という考え方は、大学生の時に学んだヘーゲルの弁証法によく似ていて、非常に取っ付きやすく感じました。そしてこの本を読むことによって、「マーケットから物事を考える」ということが、経営者として少しずつできるようになり、3年とか5年とか中長期的な視野に立って経営計画を立てたりすることがようやくできるようになっていきました。この本もAmazon.comの読者評価の数と評価の高さをぜひ見てみてください。それだけで良い本であることが推測できると思います。
この本の邦訳版は2008年に出版されています。
これももちろん英語版を読むのがおススメです。比較的分量は少ないので洋書入門としては良いと思います。
以上、「私の経営に最も影響を与えた洋書5冊」でした。すべての本は現在ソフィーのテキストとして扱っていますので、クラスの中で読むことができます。洋書入門者におススメなのは【1冊目】 Dan Kennedy “The Ultimate Sales Letter“と【5冊目】Al Ries & Jack Trout著 “Positioning“です。
興味があればぜひ挑戦してみてください。