ある日の朝、いつものように職場で日経新聞に目を通していた。そこには「世界のホームラン王」王貞治さんの手記が載っていた。それを読んで発見したのは、元メジャーリーガーのマツイとリーダーシップに関する名著『7つの習慣』との意外な共通点だった。
ある朝、日経に王さん
ある朝、いつもの通り日経新聞を見た。その最終面には各界で実績を残してきた方が自身の人生を振り返った手記を連載していく『私の履歴書』という長く続いているコーナーがある。そこに「世界のホームラン王」王貞治さんの手記が連載されていた。王さんファンの私は、目を留めてそれを読んでみた。その内容は全部面白かったが、中でも特に興味をそそられた部分があった。思わずスマートフォンで写真を取り、記事を保存した。その「特に興味をそそられた部分」が以下である。
シーズン55号を記録した64年から16年連続の”敬遠王”となる。そのうちにこんなふうに考えるようになった。敬遠は相手の意思の問題だ。自分ではどうにもできない。ならば、自分で何とか出来る部分で100%、200%の努力をしよう・・・。 イニング別で見ると、初回の敬遠が一番多い。しょっぱなから歩かされて、うんざりしたこともあったが「それだけ怖がられているんだ」と思うようにした。敬遠に腹を立て、バットを逆さまに持った選手もいたけれど、それで勝負してくれるわけではないのだ。 タイトル争いにしても、私は周りをみなかった。田淵や田代富雄(大洋=現DNA)ら、ライバルの本塁打を妨げる立場にはない。ならばやはり自分。自分さえしっかりしていればいい。タイトルはあくまで結果だ。この原点に立ち返ってキングの座を取り戻したのが76、77年。初タイトルから勢いのままに打っていた時とは違う充実感があった。(2015年1月21日 日経新聞より)
そして、マツイ
なぜこれに非常に興味を持ったかというと、あの元ヤンキースのヒデキ・マツイが以前まったく同じようなことを言っていたからである。私の記憶が正しければ、確かヤンキース2年目くらいのシーズンオフに日本で帰国したマツイが日本テレビの『世界一受けたい授業』の中で、「自分の能力を発揮するための秘訣」として「100%理論」という持論を説明していた。それは「『自分がコントロールできること』(例えば、「打席に入る前までに必要な準備をする」など)と『自分がコントロールできないこと』(例えば、一打席ごとの結果やファンの評価など)を分別し、『自分がコントロールできること』のみに100%集中する」というものだった、と思う。しかもさらに興味深いことに当時ヤンキースのトーリ監督も「まったく同じことを言っていました」とマツイは言っていた。
『7つの習慣』との共通点
そして実はこの考えとまったく同じ考えが、スティーブン・コヴィーのベストセラー『7つの習慣』(原題”The 7 Habits of Highly Effective People“)の中にも書いてある。これは「影響の輪(Circle of Influence)」と「関心の輪(Circle of Concern)」という言葉で表現されている。人は身の回りにたくさん関心のあることがある。だけれども関心はあってもすぐには自分の手でどうにもできないこともある。たとえば上司の気持ち、とか、明日の天気、とか、外国の紛争、とか、そういうものに対しては、少なくともすぐには直接コントロールすることはできない。しかし、関心があることの中には、すぐに自分で直接コントロールできることはある。自分の言葉遣い、 とか、雨になった時のための前日の準備、とか、目の前の人にやさしい言葉を掛ける、とか、そういうことはすぐにコントロールできる。コヴィーはその人の関心の範囲を「関心の輪」と名付け、そのうちすぐにすぐにコントロールできる範囲を「影響の輪」と呼んだ。たいていの人は「影響の輪」の外にある関心ごとにくよくよしたりして、時間やエネルギーを割く。しかし、有能な人は「影響の輪」の外にあるものは、一旦手放してしまい、「影響の輪」の中にあるものだけに時間やエネルギーを集中させる、というのだ。そしてその結果として「影響の輪」は広がっていき、これまで力が及ばなかった「関心の輪」の範囲の物事まで影響力を及ぼせるようになっていく、というのである。
みんな同じことを言っている。極めて面白い。
私たちの日々の問題点と解決策
私たちは仕事や日々の生活の中で、つい「影響の輪」の外にあるものに時間やエネルギーを費やしてしまいがちである。上司の悪口を言ったり、お客さんに対する不満を言ったり、景気に対する不安に頭を悩ませたり、過去の出来事を思い出してクヨクヨしたり、政府の方針に文句を言ってみたり、そういうことに意識を向けがちである。
こういうことに関心を持つのは決して悪いことではない。むしろ素晴らしいことであったりもする。しかし、そういうことに必要以上の時間とエネルギーを割きすぎるのは、あまり意味のないことなのかもしれない。それよりも、きちんとその関心ごとが「影響の輪」の内にあるのか外にあるのか考え、分別し、内にあるものに集中するように努めることが良い成果を上げるためには必要なのだろう。
少なくとも王さんとヒデキ・マツイと『7つの習慣』のスティーブン・コヴィーは、そう言っている。